嫌われる勇気

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ベストセラーとなったアドラー心理学による自己啓発本

本書は「嫌われる勇気」というタイトルではあるものの、嫌われものになるためのノウハウ本ではない。嫌われることを恐れていては何もできないよ、という意味である。

100人いれば100人に好かれることはなく、自分のことを嫌う人もいるという前提を受け入れること、そして嫌われたくない一心で他人の評価を得るようとすることはお止めなさいと述べている。

アドラーの教えをわかりやすく平易な言葉で解説しており、「嫌われる勇気」というキーワードだけでなく、幾つものアドラー心理学のメソッドがこの本にはあります。あくまで、嫌われる勇気とは本書のなかの一節にすぎないということを念頭においてもらいたい。

 

なぜアドラー心理学の本書がベストセラーになったのか

読み進める前に私はある疑問を持っていた。

数多ある自己啓発本のなかで、古典であるアドラー心理学について書かれた本書がなぜ100万部を超えるベストセラーになったのか。

読み終えた今、その疑問に対する自分なりの答えが見えてきたような気がする。

 

1.心理学を知らない

心理学について、みなさんどういうイメージをお持ちだろうか。

私はこころの学問であると同時に、自分という人間を知る学問でもあると思っている。そうした漠然としたイメージはあるものの、具体的な心理学の学問的知識はなく、自分の身となっている心理学といえば専ら自らが対人関係で学んだ成功法や処世術にすぎない。誰もが自らの心理学を生活のなかから学ぶが、古典心理学は本を開き学ばなければ会得することができない。知っているようで、実は知らない。それが心理学に対する私のイメージ。

本書は自己啓発本であるが、中身はアドラー心理学そのものであり、古典心理学の経典である。読み進めるなかで心理学の真髄に触れ、知識欲が震えるわけです。古典の入り口として最良の本であることがベストセラーになった要因の一つなんじゃないでしょうか。

 

2.アドラー心理学がおもしろい

アドラー心理学は世間一般と逆説的な考えが多い。そこが痛快におもしろい。

たとえば、「トラウマは存在しない」という説。
いやあるよ、おおいにトラウマあるよ。と読みながら突っ込まざるを得ない。しかし、そこはアドラーさん。しっかりと反論してくるのです。というか、斜め上から反論してきやがるわけです。

「兄ちゃん、トラウマっていうけど、それただの言い訳やから。過去にしがみついて変化を拒んでいるだけやん。」と。

酒の席が上司がこう言ってきたらパワハラだと炎上する現代。1870年生まれの人生の大先輩アドラーさん(オーストリア出身)には関係ありません。そしてアドラーさんはこう続けます。

「まあ、単に兄ちゃんに変わる勇気が足りないだけやな。」

いやいやいや、そう言われてもそれただのポジショントークですやん。と愚痴を言いそうになる私。

アドラー心理学はぶっちゃけ、勇気の心理学やで。そもそも、いま兄ちゃんが不幸やなーとか思うんならワシは一言言いたい。それ自分で不幸を選んだだけやからな、と。過去は関係ないんや。何を与えられたかじゃなくて、与えられたものをどう使うかやで、兄ちゃん。ワシがとっておきのええ思考法教えたるさかいにな。安心せいよ。ま、そない暗い顔せんと、まあ飲みいや。」

アドラーさん(涙)。

と、居酒屋でええ話聞かせてもらっているかのような気分になります(主観)。イラっとさせてからの回収がうまい。そういうところも私がおもしろいと思うところです。

(※本書で関西弁は出てきません)

 

3.対話形式の物語

本書の登場人物はアドラー心理学をマスターした「哲人」と、その教えを受ける「青年」の二人。この二人の会話形式で構成されています。

青年はアドラー心理学の突拍子もない説に反論していき、哲人がそのすべての反論をアドラー心理学を用いて綺麗に、そして華麗に捌いていく痛快なドラマ仕立てです。
読み手は青年に自分を重ね合わせながら読み進めるわけで、まあ、そう反論するよね、と青年の一挙手一投足に頷くわけです。
ボケとツッコミのお笑い要素はありませんが、テンポのよい二人舞台を見ているような気分になります。
ふたりの掛け合いがほどよくて、気持ち良く読み進めていけます。

この二人芝居の構成は、水野敬也さんの『夢をかなえるゾウ』と同じです。ただ、あちらはお笑い要素特盛りで。難しい話を分かりやすく伝える方法として二人芝居形式は有効な手法なのでしょう。

 

4.タイトルコピーが絶妙

「嫌われる勇気」というタイトル。もし「アドラー心理学が伝えたい48の教え」とかだったら絶対売れなかったと思う。

嫌われたくない思考の人が手に取りたくなるタイトル。そして、嫌われることを厭わない意識高い系の人なら「ああ、おれの対人攻略メソッドが本になっている」と思うタイトル。

人は誰しも悩みの一つや二つはあるものです。アドラーは言います。人の悩みはすべて対人関係の悩みであると。対人関係の悩みトップ10に常にランクイン(主観)してくる「嫌われる」というキーワードに悩める人々の脳内アンテナが反応しないわけがありません。

売れるかどうかは本のタイトルで決まるといっても過言ではないでしょう。購買層の懐の広さを感じさせます。本書の続編に「幸せになる勇気」という本が出ていますが、タイトルのセンスは断然こちらに軍配があがりますね。悩みの痒いところに手が届くようなかんじで、もうこれは声に出して読みたいほどよくできたタイトルなわけです。

 

大切なことは、いまを生きていくこと(真面目な話)

この本にはアドラーの教えがたくさん書かれています。
しかし、この本を読んだから何がしの悩みが解決できるわけではありません。
アドラーは言います。

「ワシができることは兄ちゃんのこれからがより良くなるよう道先を照らすだけや。その道を歩み進めるかは兄ちゃん自身が決めることやで。」

アドラー心理学は宗教ではありません。信じるだけで救わるほど甘くはありません。
自分の足で自分の道を進める勇気が必要だと、この本から言われている気がします。

過去の呪縛にとらわれることなく、いまを生きていくこと。
それがアドラーが知る由もない未来(現代)にあてた普遍的で心の中心に置くべき考え方なのかもしれません。実行し、いまを変えるのは自分(あなた)なのです。